エッセイ

耿さんの日々

ミスコンテスト

 一次審査が終わり控室に戻ると他の人達も次第に集まり始めた。

「いやあ、人を審査すると言うのは難しい。しかもこんな短い時間で人間性なんかまで、とても見分けられない」

誰もが苦笑いを浮かべて首を捻っている。

ここはミスユニバース青森県大会の審査会場である。審査員にはマスコミ関係者や、県知事の代理の方までいて全部で約二十人、よく集めたものである。その中で誰がどう選んだのか、なんと私に審査委員長の指名が回ってきた。何故、といぶかしんだが面白そうである。何しろ一番の美女を選ぶ役目なのだから、さしずめどこかの神話の神様にでもなったようなものでそんな面白いことを断る手は無いと引き受けたが、来てみると華やかに飾られた会場の真ん中に赤い絨毯を敷いた通路があり、その正面、ど真ん中が私の席、審査が始まると、暗いから良いようなものの明るければとても落ち着いて座ってはいられない雰囲気である。

まずはお洒落着を着て一度目の審査。ところが、次から次へと美女が現われては一回転して消えていく。流れが速過ぎて評価が追いつかない。終わってみればどの人も同じような点数でしかなく、
「さて困った。ええい」
と適当にやっつけて終わらせると二度目は水着に着替えてで、ビキニというより細い紐に布切れを付けただけの美女が思い入れたっぷりの流し目を次々に食らわせていく。息を呑むとはこのことだろう、いつの間にか両肘をテーブルについて首を突き出し、約一時間半気の緩むことが無く、終わった時には喉がカラカラで、控室に戻るなり冷たい水を一杯飲み干してようやく肩の張りが解けた。
「ミスなんとかの選考会って、最近少なくなったね」
誰ともなく話しかけると、審査員を務めていた地元のテレビ局の人が、
「批判が強くてね。外見だけで人間を審査するなんて女性蔑視だと視聴者に騒がれたものだから、主催するのはやめてしまった」
「そんな時期は確かにあった。それなら、学力だけで審査する入試も同じじゃないのかな」

うんうんと頷く人が数人。そうかも知れないが、とテレビ局の人が説明を続ける。
「当時は女性の社会進出も少なくて、『男性と同じ基準で評価しろ』と。特に女性で発言力のある人が強く言うと社会全体がそれに流されていたからね」
「今だといろんな基準があるだろう。美しさも一つの能力として評価することがあっても良さそうだが」
「だめだめ、マスコミは慎重にならざるを得ない。世間は怖い」

話が途切れて暫く沈黙があった。点数の集計に手間取っているようである。他の人に、
「最初の審査でだいたい点数はつけたんだけれど、水着になって上げた人が何人かいる。若い女性の水着姿をあんなに堂々と真剣に見つめたのは、たぶん生まれて初めてかな」
「それはだって、そこに自信のある人が出場しているんですから。しっかり見てください」
と、数少ない女性の審査員。同性の美しさを磨く仕事をしている、セレブである。
「今おっしゃったように、美しさも能力の一つなんです。そのために涙ぐましい努力を、出場者の皆さんはしてきているんです」

説得力がある。実は昨夕こっそりこの会場へ来たのだが、リハーサルが終わった後トレーニング室でたっぷり汗を掻いている女性がいた。印象に残っていて、その彼女に私は最高点を付けた。

集計が終わったようだ。ここで二次審査に出られる人が十人に絞られる。結果が私の手元に来た。私が最高点を着けた人が全体でもトップだったのでちょっと安心した。
「では発表します。二次審査出場者は……」
…………

二次審査も終え現在集計中、またも手間取っている。今度はドレス姿で、審査員が交代で一人に一問ずつ質問をして、その受け答えが点数の大きな部分を占めることになる。理性や知性を感じさせるか、発言に澱みや戸惑いが無いか、マナーを弁えているかなどが主なポイントだが、大きく点を損ねた人はいないようである。十分に練習をしてきたのだろう。なかでも一次で最高点を取った女性は素晴らしく、集計をするまでも無く結論は出ていると思うのだが事務方はとても慎重である。

ロの字型に組まれた机の向い側に、昨年日本代表となった女性がいた。彼女も審査員の一人で、流石に美しい。特に笑顔が魅力的で、視線が合うとこちらがつい照れてしまう程である。何気なく話しかけてみた。でも自然に言葉が改まってしまう。
「代表になると世界大会だけでなくいろいろ忙しいんでしょう」
「ええ、各種のイベントにお招きを受けます。決して暇ではないですね」

ほかにもたくさん尋ねた。コンテストに出る前の職業や美しさを保つ秘訣など。答えにくいことにはただ微笑んで返すが、その様が絵になっているのは美人の特権というものだろう。出ようと思ったきっかけを聞くと、
「実は、高校に行っている頃から何時か出てみたいと希望していました。だから仕事の後色々な教室に通って備えていたんです」

件の女性審査員が口を挟んだ。
「そんな方が殆どですよ。周りから進められて何となく、と言う方はまず代表までなりません。一挙手一投足、言葉の隅々まで審査されるのですから、付け焼刃ではとてもとても」

それはすごい。やはり美しさは能力、どうやら認識を改めた方がよさそうである。

私の手元に結果が来た。予想どおりで、優勝者は青森県出身ではないのが残念だが、県代表として、全国大会で、できれば世界大会で羽ばたいて貰いたいものである。