エッセイ

耿さんの日々

歌声は雲に乗って

練習風景

一時間ほど遅刻してしまった。練習場に着くと玄関にバランスの良い歌声が響いている。今夜は人数が揃っているようだ。部屋に入って目算したらざっと三十人くらい。足音を立てないように紛れ込むと隣の人が顎で挨拶を寄越した。私も顎で返した。楽譜を開いて音程を探り、その高さに小さく驚きながら張り切って声を出したら途端に指揮が止まった。
「だめでしょう、そこは引きずらないでもっと弾まなきゃ。雲に乗っている感じです」
良かった、よそのパートを見ながら注意している。安心していたら白い棒がこちらを向いた。それも私に……。
「今さっき、うんと軽く、と皆さんに言ったばかりなんです。トップは特に意識して」
 老眼鏡の中の瞳がめっぽう大きい。
「分かりました」
神妙に答えた。どうやら地上に落としたのは私らしい。
「ではもう一度初めから。それとついでに十二小節目のバリトンはこういう風に……」
自分で歌って聴かせた。さすがは元プロ、もう七十歳にもなる筈なのに相変わらず素晴らしい声である。
「声のポイントをもっと上に置いてください。頭から出すんですよ」
殆ど髪の無くなった後頭部を見せて指差した。団員から忍び笑いが漏れた。
「本当にここから出る訳ではもちろんないけれど、響かせるんです。そんな気持ちで」
「あんまり響かせ過ぎると抜けるんでないかと心配で……」
誰かが茶化したら堪らずみんな吹き出した。先生も笑っている。
「そんなことありません。却って刺激になって生えてくるから」
「先生に言われても説得力が無いなあ」
笑い声はさらに大きくなった。

団員には年配者が多い。かつて合唱はメジャーな趣味だった。だが今はロックやラップが主流でクラシック系に若手が入団してこない。平均年齢は年毎に上がり、私でさえまだ平均より下だと言うから驚く。当然頭髪に不安を持っている人は多く、話題に上がると一見知らん顔を決め込んでいても内心耳がそばだっている。でも身につまされるのか、誰も突っ込んでは来ない。もはや合唱はループタイが似合う年代のノスタルジーになってしまった。成る程、使っている楽譜の半分以上は四十年前と変わっていないし、新しいものでも発表されてから十年は経っているだろう。確かに古い。

「響きが低いから音が下がるんです。頬の筋肉を弛ませたら駄目ですよ」
教える声が一段と大きくなった。表情を真似て、皆が目尻を吊り上げ鼻の穴を膨らませている。同じような顔が並んだ。滑稽だが笑ってはいけない。真剣なのだ。

この街はアマチュア音楽が盛んで、中には全国大会で上位に入賞するグループもある。我が男声合唱団はコンペなどには出ないが、でもレベルが高いと地域では評価されている。

あと一ヶ月と少しで演奏会が開かれる。自分たちの声で聴衆を魅了できたときの嬉しさは格別で、団員たちも練習に気合が入ってきた。ところが私はと言うと最近欠席や遅刻を繰り返している。教えられたことが分からないから、突然奇声を発して雰囲気をぶち壊すこともある。そんな時は謝るしかない。休みの多い他の人を引き合いにして甘えるのは不本意である。

指導する側も辛いことだろう。アマチュアでは仕事優先だからあまり厳しくもできないし、かといって完成度を高めるためには要求したいことが山ほどある。下手な妥協をしてレベルを下げるのは、歌う側も望まない。

「当日のスケジュールですが……」
休憩時間になると団長が前に出て話し始めた。高校の元教員である。メンバーには教師やそのOBが多く、それが団の雰囲気を醸し出している。私はビジネス社会の人間で、縁があってこの街に住みつき、この団でたくさんの友人と知り会い時々声を張り上げる生活が染み付いてしまった。合唱に魅せられ、おたまじゃくしに脳味噌を占領されていくつになっても五線の上を泳ぎ回っている仲間の、ここは憩いの場である。
「できれば今から生活の不摂生は慎んでいただいて……」
説明は集合時間から衣装、楽譜の組み方、当日までの健康管理にも及んだ。
「この間はどうもね、これ」
と 顎で挨拶した人が写真を差し出してきた。半年も前の花見のスナップだった。酔っ払い、大口を開けて笑っている自分の姿がそこにあった。練習はサボっても飲み会は欠かさない、それがモットーだと話をしたら意気投合して二人で大いに盛り上がったものである。とても砕けた話し方をする。だから私も同じ様に返す。
「もらって良いの」
「もちろんよ。上げようと思ってたんだけど、ずっと忘れててね」
 よく見るとその人も同じ画面の中に映っていた。するとこれは誰が撮ったのだろうか。
「お互いにひどい顔をしてること」
 二人して笑いを噛み殺した。

 

練習再開である。
「出だしの音に気をつけてください。始めに狂っていたら最後まで合う訳が無い。最初の音で伸ばしてください」
 恐る恐る声を出した。
「さっきと違う、もっとアクセントを効かせて。探りながら、はいけません。パート毎にいってみましょう。トップから」
 指揮棒が踊り、すぐに止まった。
「音程が濁っている。ひとつのパートに音は一つしかないんだから、揃えてください」
 周りの人の息遣いが聞こえる。
「違う、違う。こっちをもっとよく見て。気持ちを合わせてください」
先生の要求が高くなるのはレベルが上がってきた証拠である。それぞれが一生懸命に応えようとする。何とか纏まり次のパートへ、そして全員で。
「そうです、その音が欲しいんです。自分でも分かるでしょう、お互いに響いてるなっていう感じが」
 頷く人がいる。私もその一人である。
 ようやく一曲が仕上がり束の間の充実感に酔い痴れた。残り時間が少ない。
「では次の曲、今日は時間を延長するけれど良いですか。練習できる日が余りありません。これからは毎回延長だと思ってください。間に合わなければ特別練習日も作ります」
 異議を唱える人はいない。都合が悪ければ欠席するだけだから。
「この曲は、前半リズムも歌詞も簡単なんですが不協和音と協和音が交互に出てくるんです。だから合わせるのに難しい。音程をしっかりとらないと不快和音になります」
 洒落に反応する人はいなかった。難しさは十分自覚している。半音記号が付いたり消えたり、何度パート練習を繰り返しても満足な成果はなかなか得られない。
「では、いきましょう」
指揮棒がゆっくりと動き始めた。団員の顔つきが変わり始めた。楽譜と棒を追っかけるのに必死である。ピアノ伴奏が付いて総仕上げに入った。ハミングとスキャットの繰り返し、ソリストと合唱の掛け合い、そしてまたハミング。
「強過ぎてはいけません。抑えて、抑えて」
棒が胸元で小さく刻まれた。ピアノからピアニシモへ、狭い範囲で強さに差をつけるのはアマチュアには至難である。その上に不協和音。神経を研ぎ澄ましていないと自分がどこを歌っているのかさえ分からなくなる。緊張が続く。声が調和して倍音が天井に響いた。先生の眉が小刻みに痙攣した。
「これこれ!音楽は聞いている人に伝わらなければ駄目です。今、鳴っています」
指揮が一瞬止まり、次に両腕が大きく動いて歌い手を煽り立てた。
「どんどんクレシェンドして、最後は力尽きるまで声を出すんです。歌詞を大切にして。何のために休符が付いているんですか、意味を考えて歌いなさい」
 注意する言葉が厳しくなっても文句が出ない。誰もが今、自分達の合唱が芸術の域に近付いていることを自覚していた。この高まりを維持し続けたいと熱気に溢れ、心は青春の真只中にある。フォルテシモを指揮棒が纏め、伴奏が響きを止めたときには予定の時刻を三十分以上も過ぎていた。
「じゃあ、今日はここまでにしましょう」
ふう、と息を吐いて座り込む人、急いで楽譜を仕舞う人、椅子をたたむ人……家路を急ぐ団員達の心は満足感に溢れ、脳裏には黒々とした髪を誇る青年期の自画像が鮮やかに描き出されていることだろう。

 

本番前
 来るのが少し早過ぎたようだ。まだ一時間以上ある。仕方あるまい。気持ちが昂っていつもより早く目が覚め、珍しく散歩をし、しっかりと朝食も摂った。それでも時間を持て余して、家にいるよりはゆっくり会場に馴染もうと出てきたらなんとメンバーは既に半分くらい集まっていた。皆落ち着かないのだろう。特に定年退職した人には今日は社会と深く関わる日、合唱団の定期演奏会である。私はまだ現役、忙しい時間を無理やり調整して出場にこぎつけたのだ。ちょっと威張ってみた。

楽譜を見ながら復習に余念が無い優等生、あちこちと歩き回る小心者、ただぼんやりと天井を見つめているのんびり屋……それぞれが思い思いに自分の時間を過ごしている。簡単にストレッチをしてから小さく声を出してみると、いつもより低いし濁っている。原因は、と考えて苦笑した。いろいろ思い当たる。朝だから、昨日飲みすぎたから、風が冷たかったから……でも本当の理由は実は自身が一番よく知っている。下手だから……しかしこれだけは口に出したくないし、ましてや他人から言われたくない。これでもたまには自分でもうっとりするくらいよく声が出る時や響きあうことがあり、その充実感がいつまでも記憶の底に残っているから幾つになってもコーラスをやめられない。もう中毒である。

誰かの携帯が鳴った。私と同じ現役のあいつ、電話を持つと普段より大声になるから滑稽である。今日くらい置いてくれば良いのに、わざとらしく仕事の指示を出している。
別の携帯が鳴った。小さな声で、
「迎えには行けないよ。タクシーで来て」
「奥様からですか。久しぶりにお会いしたいから早くお出でくださいと仰ってね。そろそろ代わっていただかないと。私もそう先が長くないでしょうから、一度ゆっくり客席で聞いてみたいのよ。だって、今までずっと受付担当で、舞台を見たことがないの」
横から声をかけたのは別の団員の奥様である。身内の中に道楽を持つ人がいると家族は大変な苦労をする。

「では皆さん、集まってください」
 団長が舞台の袖で呼んだ。楽譜をしっかりと脇に挟んだ。
「ついに今日がやってきました。日頃の練習の成果を大いに発揮してください。スケジュールを確認しておきます」
 ひとしきり説明が終わると登場と退場のリハーサル、そして舞台上で並ぶ順を確認し、
「背の高い人は後ろに立ってください。ソロのある人は前へ。肩幅に足を開いても隣と肘や手がぶつからないようひな壇一杯に拡がって下さい」
団長の指示はとても細かい。

やがて発声を兼ねて練習が始まった。先生がタクトを振り上げる。喉の具合も少しは滑らかになったがそれぞれの声がまとまらない。大きく張り上げると指揮棒が止まった。
「無理して出さないで。二階席の一番前に届ける気持ちで歌ってください。練習場より広いから声が散るでしょう。でもその方が伸びやかに聞こえるんです」
 いつもは厳しい先生が妙ににこやかである。明るい雰囲気で本番に臨みたいのだろう。
「楽しい曲はうんと楽しそうに。歌っている側が思っていないと伝わりません。悲しい曲も同じことです。歌詞を見てください、点が入っているでしょう。休符は無いけれどここで文脈が切れるということなんです。声楽曲と器楽曲の大きな違いは分かりますか。それは言葉があることです。意味を伝える気持ちが必要です」
普段にも何度か聞いた。今日は歌詞についての注意が多い。殆ど再確認である。それが仕上げということだろう。

第一部のアカペラをざっと流した後、第二部の組曲に入った。一つ目はレシタティーボの多い、言わば状況説明の曲、二曲目は思い出、三曲目は感動、そして自然への賛歌と続く。ピアノの前奏が弾け、胸の内で拍数を勘定して間違いなく出たつもりだったが、
「駄目でしょう、直前に息を吸うから声を擦り上げてしまう。二、三拍前にたっぷり吸っておなかに溜めておくんです。もう一度始めからいきましょう。本番ではやり直しなんて出来ないんですよ。この棒の先に精神を集中してください」
 徐々に要求が高まり、声も大きくなった。
「それぞれが別々の曲ではないですよ。始めの曲を歌うときから最後をどう盛り上げるか考えておくんです。いきなり声の限りを出したら、終わり頃にはへばるでしょう」

いつものペースになってきた。緊張感が楽しい。会場に響きが漂い始め、本番に期待が湧いた。終わった時は正午を過ぎていた。

「開演は二時です。十分前に集合。それまでに各自でお昼を取ってください」
 食べ過ぎないように、辛過ぎるものやしょっぱい物は控えて、お茶や水分も程々に、衣装はどうでこうでと、読経のような注意がひとしきり並べられた。団長のいつもの儀式である。
昼を食べ終えると坐禅を始めた人がいた。
「静かですね」
「気を落ち着かせたくて」
車座になって騒いでいる人達もいる。
「元気ですね」
「テンションを上げておかないと、ね」
 前売り券販売の担当が清算を始めた。
「残った券はこちら。代金は箱に入れてください。未収は立て替えでお願いします」
「冗談じゃない。年金生活者にとっては千円だって大金なんだ。あとあと」
出し渋ったのは元高校教師である。この人には何故だかからかいたくなる。見せびらかすように、
「全部払っとくよ」
と お金を並べると、
「さすが現役。金回りの良いこと」
「回りだけはね、でも貯まらない。財布をただ通過して全部無くなってしまう」
「通過するだけ良いじゃないの。引退組には近寄りもしない」
「死ぬまでの生活を保障されてるんでしょうが」
「食べる分だけだよ。オーナーは恵まれてるね、定年が無いから」
「生涯お金に苦しめって言うことですよ。早く楽になりたい」
 二人のやり取りを聞いていた人がたまらず噴き出した。
「あんたら、二人揃うといつも漫才始めるけれど、いっそのこと商売にしたら」
「いえいえ、私なんぞ見ての通り内気で口下手なもので、とてもとても」
「誰があ……」
回りの何人かが近寄って胸や頭を叩いた。

一時間前になって舞台衣装に着替えた。仕事のお付き合いで聞きに来てくれる人がいる。挨拶に楽屋を出ようとしたら、「蝶ネクタイ、歪んでるよ」さっきの元教師である。鏡で確認したが異常は無い。
「目が歪んでるんじゃないの。」
 顔見知りに頭を下げて元に戻り暫くしてまた出直す。別の人が来ているかも知れない。
「落ち着かないね、気が小さい」
この元教師は私に絡むことで奮い立たせようとしている。
「そうそう、商売人の習性ですよ」
私の場合は動き回って気持ちを高揚させるのだ。じっとしていると不安ばかりが膨らんでくる。だから相手にしない。

「集合です」
 団長が声をかけた。舞台に並ぶ時、袖から客席が見えた。そこそこの入りである。気合が漲り、深呼吸すると鼻の穴に冷気が通った。
 チャイムが響き客席が暗くなるとアナウンスが入り、幕が上がった。息を整えて、さあ、いよいよ始まる。

 

幕が下りた後で
 緞帳が下りて客席が隠れると舞台はただの部屋になった。半年以上かけて準備し稽古してきた合唱の演奏会がとうとう終了したのだ。肩の力が急に抜け、達成感が皆を気違いにしていた。隣の元教師が少ない髪の毛を掻き上げて下壇の後輩とハイタッチし、バリトンの商店経営者は同業の団員と固く抱き合った。トップの小柄中年に至っては楽譜を高くかざしてだらしない嬌声を上げながら駆け回る始末である。これで公務員だから驚く。

なかなかの出来栄えだった。歌っていて観客の反応が伝わって来たし、アンコールで席を立つ人もいなかった。満点とまでいかなくとも九十点以上はつけられる。充実感が胸に満ち溢れていた。これだからコーラスはやめられない。他のメンバーも同じ思いだろう。
「まだ終わっていませんよ。さあ、お見送りです」
 団長が声をかけ、全員が足早にエントランスホールへ急いだ。もうパートごとに並ぶ必要は無い。それぞれが勝手に笑顔を振りまき、お客様に挨拶をして送り出す。階段下に取引先の人が見えたので近付いて握手した。
「なかなか素晴らしかったですよ」
満更お世辞でもなさそうである。
「有難うございます」
何度も恐縮して頭を下げた。
「さすが商売人。そつが無いね」
元教師が冷やかしてきたのに、
「年金生活者は気を使わなくて楽だね」
軽口で返した。

ロビーサービスは、まず『お休み』。タイル張りの床と高い天井がステージよりも良い響きを返してくれる。歌っていてとても気持ち良い。出口の客が立ち止まって耳を傾け、最後のハミングが消えると大きな拍手が起こった。次は男声合唱の名曲、『ウ・ボイ』。軽快なリズムに手拍子が起こった。一緒に歌っている人は同じ趣味の持ち主に違いない。観客がいよいよ帰り始め、二番まで歌い終わると残っているのは関係者ばかりになった。
「では片づけをして、あとは楽しい打ち上げです」
団長の宣言に歓声が起こった。
「終わったー、終わったー。」
小柄中年は歌っている時よりも高い声を上げてまた走り回り、もう一人がその後を追っかけた。私はまだ冷静。いくつになっても無邪気に感動を表現できる人が羨ましい。

楽屋へ続く廊下にたくさんの花束が並んでいた。私宛のものも二つあった。義理堅さに感謝して取り上げると、件の元教師が直ぐ横にいた。
「あんた、二つだけ?僕には四つも来ているよ」
「数の問題じゃないでしょうが」
 花についているメッセージを盗み見て、
「女性からなんだ。何処の飲み屋のおばさんから」
「自分と同じにするんじゃないよ」
むきになると、
「僕はね、昔の教え子から。尊敬と愛情を込めた贈り物」
 目一杯上がったテンションがまだ下がらないらしく、何時までも絡み付いてくる。嫌味なことこの上も無い。無視して楽屋でさっさと着替え、打ち上げ会場のレストランへ着いたら一番乗りだった。
「まだご予約いただいた時間まで一時間近くありますが、お待ちになりますか」
「じゃ、ビールでも飲んでるか。別会計で良いから」
 喉を潤して一息ついていると、次に来たのがまた元教師だった。今日はどうも間が悪い。
「なあに。一人寂しくやってるの、可愛そうに。付き合ってあげようか」
「いらない、いらない。目障りだからあっちへ行って」
「まあまあ、せっかく親切に言ってあげたんだから、そう邪険にしないで」
 厚かましく私の前に座って飲み始めた。
「請求は一緒にしないでね。それぞれだから」
 店の人に大きな声で念を押し、それでもグラスを軽く持ち上げ、
「取り敢えずは乾杯と行きますか」
「成功を祝って」

半分ほど飲んだところで他のメンバーも集まってきた。
「相変わらず仲が良いね。よほどウマが合うんだ」
二人で居るのを見て言うから、
「どうして、こんな人と」
すると相手も負けずに、
「最悪ですよ」
「そんなこと言ってるけれど、私の見る限り同じ性格をしている」
 がっくりと項垂れた。似た者同士だったのか。しみじみと顔を見たら少しだけ親しみが湧いた。
「仕方が無い。それじゃ仲良くいきますか」
「同じ空気吸ってるからね」
 もう一度乾杯してグラスを干した。今夜は大騒ぎでもしようか。どうやらたくさん飲まないと治まりそうに無い。