エッセイ

耿さんの日々

お出迎え

八戸せんべい汁がB1グランプリで一位を受賞した。マスコミ報道もあり次の日は朝から幾つかの会議があったがどこでもこの話題で持ちきりである。会議所の会頭が、
「是非盛大にお祝いをしなければ」
 と言えば市長は、
「今年三つ目の金です。凱旋するからみんなで迎えに行きましょう」

他愛もなく、無邪気にはしゃいでいる。そういえば、オリンピックで八戸出身者二人が『金』をとったのだった。で、私も行くことにした。

夜、八戸駅はもう東京行き最終便が出た後で普段は閑散としているのに今日ばかりはぬいぐるみやスタジャンを来た人が集い、賑わっていた。防寒服に身を固めた人も居れば○に「せ」の字のついたTシャツ一枚の夏姿もいる。みんなどこかで会ったような人、人。まだ歩けなさそうな赤ん坊を背負った、見覚えのある女性が挨拶をして来たので、
「いくつになったの」
「八カ月になりました」
「それにしてはかっちりしてる」
見ると下の歯が生えかけている。可愛い盛りなんだろう。

やがて電車が着く時間になり、改札口の前に並んで待機すると正面に横断幕が広がった。「おめでとうゴールドグランプリ」大きな文字である。その隣にせんべいの大きなレプリカが五枚。これにも一つ一つに文字が書かれ、「お」「め」「で」「と」「う」と並んだ。今朝から慌てて作ったのだろうが、器用なものである。
「ちょっと待っててください。一般の人が終わってから揃って出て来ます」
一人が改札を駆け込んでいった。暫く待つと頭に手拭の鉢巻きをした一団が現れ、こちらのよりは少し小さい横断幕が見えて来た。これには『イケメンふうふうボーイズ』と書いてある。熱いせんべい汁をみんなで吹いて冷ますパフォーマンスをしたらしい。せんべいの形をしたプラカードを掲げている若い女性もいる。こちらは『身代わりシスターズ』、列に並んだ人が途中で一時的に抜ける時に交代したそうな。なるほど、こんな風にして会場を盛り上げたのだろう。こちらも旗代わりのせんべいを振りかざして歓声を上げた。

全員が中央通路に並び、即席の報告会となった。花束贈呈の後、まずはせんべい汁研究所長が真ん中に歩み出て、「皆さん。やっと、ついに、とうとう金の箸を持って帰ることができました。何年か前、二位になった時にはだれも迎えに来ていただけなかったのに、でも今度はこんなにたくさん。一位と二位の差がこんなに大きいとは」

大きな金の箸を抱えた人が高くかざした。受賞式の感激を思い出したのか、所長は言葉が詰まりがちである。吊られてか祝辞を言う市長の舌も動きが滞る。最後に副会頭が、
「では万歳三唱をしましょう。『ばんざい』ってするんですよ」
合わせて声を上げようとした人がずっこけ、笑いが起こった。せんべい汁を有名にするために損得なく走り回った人とそれを応援した人。そんな人たちが集う八戸は楽しいまちである。