エッセイ

耿さんの日々

冬の十和田湖

カルチャーセンター、キャンバスに通う人達と冬の十和田湖を訪れた。小型バスの中は殆どが女性で、皆がそれぞれに同じ趣味の親しい仲間同士だから、狭い社内は早速話の花が咲き、華やいだ。飲み物やお菓子が振舞われ飲んだり食べたり喋ったり、自宅で作った漬物を持ってきた人が披露し他の人が一口つまんでは賞賛する。旺盛な活力である。男は私とスタッフ二人の三人いるけれどとても太刀打ちできない。途中の景色はまだまだ家並みばかりで見るところも無いから、話はどこまでも盛り上がった。

いつの間にか吹雪模様である。窓の外は白く、ガラスがたっぷり濡れていた。ようやくのことでバスは奥入瀬渓流の道に曲がった。とたんに大きな声で、
「うわっ、滝が凍っとる」
 歓声が起こった。見ると崖の上からつららがぶら下がり、まるで洋館のようである。
「こっちのはまだ流れてるよ」
なるほど、大きな岩場の氷の間を、あぶくを抱いた小さな流れが妖精のように走っていた。渓流を覆う木々の梢に葉は無く、雪模様も少し治まって見通しはすこぶる良い。幹や枝に纏わりついた雪は幻想の世界を描き出し、さながら墨絵のようである。寒いだろうけれど車を降りてゆっくり歩きたい、そんな衝動が繰り返し襲い掛かってくる。でも、今日は随行だから我慢。
「あっちの滝え、つららが斜め向いとる」
「ほんとだ、傾いとる。うちの家みたいだ」
 車内に笑い声が渦巻いた。
「風が強いとあんなになるんだって」
 物知りが解説する。したり顔で頷く人と顔を見合わせて微笑む人、わき合いあいを絵に描いたらこんな形になるのだろうか。

夜は花火を見た。温泉街の人たちが、町興しにと、頑張っていろいろな企画を立ててくれている。星が出て凛と冷えた空に咲く花は夏よりも輝いて見え、気持ちを一層昂らせた。かまくらの様に、雪で作った建物のスナックに入った。氷のテーブルの前に座り、これまた氷のグラスで飲む酒もまた格別である。秘密の宝物にして仕舞っておきたい欲望と戦いながら、感動に疲れて部屋に戻り、早々に眠りについたら翌朝その分早く目覚めてしまった。暫くは寝床の中でおとなしくしていたが我慢しきれずそっと起きて温泉に向かい、浴槽に冷えた足を浸すとお湯がピリピリと突っついてくる。心地よい刺激にうっとりして、目を開けると窓の外は明けきらない薄闇の中に雪が舞っていた。よき友とよき眺め、不景気など小さなことと痛感させられた。